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自殺報道ガイドラインを考える〜海外の事例から③アメリカ編〜

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海外の「自殺報道ガイドライン」を紹介する連載の最終回です。今回は米国の取り組みをみていきます。
米国のガイドライン「自殺報道に関する優良事例と勧告」は2011年、非営利の自殺予防団体「SAVE」が中心になって作成され、2020年に改訂されています。簡潔で、しかも具体的な論述で構成されているのが特長で、まさに簡にして要を得た内容と言えます。
まず、メディアの役割や機能について3点を挙げています。①世界中の100以上の研究から、報道には自殺の連鎖を招くリスクがあり、責任ある報道によって自殺のリスクを減らせることが分かっている②慎重に報道することで、人々の認識を変え、迷信を取り除き、自殺問題の複雑さを社会に伝えることができる③報道の中に、役立つ情報源や希望と回復へのメッセージがあれば、支援や相談へとつなぐことができる――というものです。
続いて「やってはいけないこと」「やるべきこと」を対比させながら文例を挙げ、「理由」を論考しています。最初に指摘した「やってはいけないこと」は「自殺の方法や場所について説明や描写をする」。具体例として「ケイト・スペードさんは、寝室でクローゼットの扉にスカーフをかけて、首を吊りました」を示しています。そして、「やるべきこと」は「死因は自殺とのみ報道し、場所に関する情報は一般的な内容にとどめる」。文例は「ケイト・スペードさんは、マンハッタンの自宅で自殺によって亡くなりました」を示しています。「理由」は「自殺の手段についての視覚的な描写や映像によって、自殺未遂や自殺による死亡のリスクを高めるおそれがある」と説明します。 このように「やってはいけないこと」「やるべきこと」「理由」の3要素をまとめ、具体例を交えてひとつの項目とし、計8項目を列挙しています。項目ごとに論点があり、「遺書」「見出しや記事のセンセーショナルな表現」「個人情報の詳述」などが入っています。
報道のチェックリストも5項目を用意されています。□自殺を公衆衛生上の問題として報道すること □援助に関する情報を含めること □適切な言い回しを用いること □援助と希望を強調すること □専門家に相談すること――です。□適切な言い回しを用いることのチェックリストでは、具体的に「自殺を犯した」「自殺の成功・失敗」「失敗した自殺企図」といった表現は避け、「自殺で亡くなった」「命を絶った」と表現するよう薦めています。
米国の事情を反映した内容もあります。「銃乱射事件」「殺人後に自ら命を絶つ事件」を別途、項目に掲げて言及しています。そこでは「インタビューや報道において遺族に配慮する姿勢を示す」「精神疾患を経験した人のほとんどが非暴力的であることを改めて読者に伝える」など、報道が陥りがちな面にも目配りしています。
「ウェブメディア、オンライン掲示板、ブロガー、市民ジャーナリスト」に対し、4項目の提案を行っていることも大きな特徴です。さらに追加する形で、「ウェブメディア」に特化した呼びかけを行い。ネットによる悪影響に強い懸念を示しています。「オンラインの記事、ブログ、写真、動画は、世界中の何百万人もの人々と瞬時に共有できる」として、たとえ一人の市民であっても「伝統的メディアの報道と同様の配慮が必要」と強調しています。また「ウェブ記事は、読者がコメントできる機能があることを忘れてはならない。ウェブサイトやブロガーは、人を傷つけるメッセージや危機にある投稿者のコメントがないか監視する必要がある」と要請しています。日本でも大きな問題になっているコメント欄への書き込みですが、自殺報道という視点から再度検証する必要を感じさせます。

筆者:小川一/毎日新聞客員編集委員・元JIMA理事

参考文献 
・自殺対策白書(令和4年版)コラム4:諸外国の「自殺報道ガイドライン」=一般社団法人 いのち支える自殺対策推進センター(厚生労働大臣指定法人)広報官 山寺香 朴惠善
・ウェブサイト「reporting on suicide」(https://reportingonsuicide.org/

追記
*「自殺報道に関する優良事例と勧告(Recommendations for Reporting on Suicide, update 2020)」の日本語訳が作成されました(2023年3月31日)。ダウンロードできます。参考にしてください。
https://jscp.or.jp/action/pressguideline_USA_SAVE.html