シリーズ : メディアの現場から

「健全なインターネットメディアの発展」について話し合う場が必要だ——BuzzFeed Japan創刊編集長 古田大輔さん

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聞き手:JIMA理事/令和メディア研究所 主宰 下村健一さん

2019年4月16日に発足したインターネットメディア協会(Japan Internet Media Association:JIMA)。この組織の立ち上げに深く関わり、理事にも就任したのがBuzzFeed Japan創刊編集長の古田大輔さんです。古田さんは朝日新聞社に入社後、社会部、アジア総局員(バンコク)、シンガポール支局長を経て2015年に退社、以来インターネットメディアでの情報発信に取り組んでいます。インターネットメディアをより良くしていくために何が必要なのか、古田さんがJIMAを通じて何を目指しているのか、JIMAで同じく理事を務める令和メディア研究所主宰の下村健一さんが聞きます。

JIMAは「インターネットの健全性」を議論する場

下村:古田さんは今回のJIMAに関しては、構想の初めから関わっていらっしゃいますね。

古田:はい。2016年の末ごろにスマートニュース フェローの藤村厚夫さん、マスコミ誤報検証・報道被害救済サイト「GoHoo」の代表でNPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」の楊井人文さんとブレストしたのが最初でした。当時、インターネット上の情報の信頼性が大きな社会問題としてクローズアップされていたんです。そのきっかけは、2つの出来事でした。

BuzzFeed Japan創刊編集長 古田大輔さん
BuzzFeed Japan創刊編集長 古田大輔さん

1つは、国内で大手企業が運営するサイトなどで不正確な情報や著作権的に疑問を持たれるコンテンツに批判が集まった問題。

もう1つはアメリカ大統領選挙戦です。この選挙戦では、客観的な事実や政策よりも、個人の感情に訴えるような言動や、そもそもが事実とかけ離れた「フェイクニュース」が飛び交い、真実が大切にされない「ポスト・トゥルース」という言葉も生まれました。

そうしたなか、「インターネット上の情報の信頼性を高め、メディアがより健全な情報を発信していくためにどうしたらいいか」というのが議論の出発点になったわけです。

下村:なるほど。ですが何をもって「健全」と判断するのかは、とても難しい問題です。なかには「ある情報が健全かどうかを決めるなんて、お前は一体何様だ」と思う方もいるでしょう。古田さんは「健全」という意味をどうお考えになっていますか。

古田:JIMAをつくり上げる過程で最初の方に出てきた議論が「JIMAは警察になるつもりはない」ということです。ルールを課して、規制をする組織ではない、と。

日本には表現の自由と思想信条の自由があります。それを規制することに関しては、情報の発信者として慎重にならないといけません。

JIMAは「インターネットメディアの健全な発展を目指す」という理念があります。ならば、まずやるべきは「健全な発展とは何か」を議論することです。ぼくらが最も問題視していたことは、「そもそも『インターネットメディアの健全性とは何か』を議論する場すらない」ということでした。だからそれをつくろう、というのが流れです。

情報発信者としての義務を知らないメディアが増えた

令和メディア研究所主宰 下村健一さん
令和メディア研究所主宰 下村健一さん

下村:そんな議論の場はいらない、銘々が好き勝手にやるのがインターネットの良さだ、という考え方もあるでしょう。でも古田さんは、そうした場の必要性を感じた、と。

古田:最初は情報発信者、つまりメディアならばきちんと従うべきガイドラインをつくろうと考えていたんです。といっても、そんなに難しい、厳しいものでなく、シンプルなもので構いません。実際、最初に主張していたのは「そもそも情報発信をするのならば、運営元を明記していくことは必要だ」ということでした。

しかしいろいろな人と話すうち、ガイドラインについてもさまざまな意見があることがわかりました。そして、それ以上に気付いたことがあります。それは、インターネット専業メディアのなかには、そもそも「運営元を明記する」というメディアとしての当然の了解ごとを知らない人もいるということです。

2016年にウェブメディアの信頼性が問われる問題が起こった時、ネットメディアで働く方々から相談を受けたことがあるのですが、記者や編集者としての経験なしでメディア運営をしている人も多いです。「ネット広告やビジネスに詳しいから会社にいわれてメディアを立ち上げた」という人たちの中には、情報発信側が持つべき倫理やルールを学ぶ機会がない事例があります。

日本にはもともとメディア教育やジャーナリズム教育の機会が少ないですし、社会人になるとなおさらそういうことを学ぶ機会がありません。そこで、そういう知見を共有し、議論していく場が必要だと考えました。

情報の民主化がもたらした光と影

下村:インターネットは個人でもすぐにメディアを立ち上げられますが、その結果、今まで当然の前提だったような約束ごとを知らない参入者もいる。そして、そうした情報発信者としてのキャリアや心構えがあまりない方の記事も、あるいは職業倫理に燃えて丹念に取材をしてつくる記事も、受け手側から見るとどれも区別なく見えてしまうという問題があります。

古田:そうですね。インターネットによる情報の民主化のおかげで、個人のブログが世論を動かしたり、マスメディアの記事を検証できるようになったり、すばらしい面も多々もたらされたと思います。

その一方で匿名の情報発信も広がるようになり、精査されていない情報や故意に操作された情報が流されるようになりました。ソーシャルメディアの発展も、こうした匿名の情報——なかには匿名でないものもありますが——の拡散を後押ししています。

下村:“故意に操作”の最たるものが、フェイクニュースですね。

古田:フェイクニュースが拡散されやすい状況というのは、実は決まったパターンがあるんです。たとえばAとBという対立グループがあった場合、Aに「あなたたちはすばらしい、それに比べてBはひどい」という情報を流します。するとAのグループは喜び、その情報を拡散して、「Bはやっぱりひどいんだ」という思いを強くするんです。こうしてフェイクニュースを受け入れる土壌が形成され、負のスパイラルに陥ってしまう。これが進んでいくのが「ポリティカル・ポラライゼーション(Political polarization=政治的極性化)」といわれる現象で、政治的に極端な言論に社会が分断されていきます。こうした状況は世界中で起きています。

いま問われているのは「メディア」のあり方、旧メディアもネットも差はない

下村:情報の民主化が進んだ結果、ある意味玉石混交になっているのがいまの状態ですね。フェイクがファクトによって淘汰されず台頭していく、その“追い風”は何でしょうか。

古田:そういうニュースで十分ビジネスになってしまうという状況があります。PVが高ければ広告収入が付くので、それで儲かってしまう。かなり以前から「PV至上主義は何とかしないといけない」という議論がなされていますが、あまり進展はしていません。

下村:私の古巣のテレビ界では、「視聴率至上主義」がずっと批判されてきました。新聞・雑誌界では、「部数至上主義」。こうなると、インターネットも旧来のメディアも悩み所の構造は同じという気がします。この状況の下、古田さんやBuzzFeed JapanはJIMAでどんなことをしていきたいですか。

古田:いま問われているのは、ジャーナリズムというより、新聞やテレビも含め、メディアのあり方が課題になっていると思うんです。ネット上の情報の信頼性について新聞やテレビは「インターネットメディアの信頼性が問われている」と報道することがありますが、その一方で新聞やテレビもインターネットメディアを持っているんですよね。でも伝統的なメディアの人たちには、心のどこかに「自分たちには関係ない」という思いがあるように感じてきました。

ぼくは、それは違うと思うんです。インターネット専業メディアも、テレビも新聞も出版も、すべての人たちが「デジタル時代における情報発信について」という問題意識でものごとを捉えないといけないのではないかと。

そこでまずは、いろいろなメディアが集まって、知見や課題を共有することが一歩だと思います。「そんな悠長な」という声が聞こえてきそうですが、まずは定期的に集まり、議論が空中分解しない体制をつくっていくことが重要だと考えています。

下村:と言うことは、BuzzFeed Japanでもたくさんの知見や課題を、このJIMAという場に提示していくわけですね。具体的にはどのようなものがありますか?

古田:たとえば先ほどのPV至上主義の話、テレビでいうと視聴率になるのでしょうが、そうした指標からどう脱出するかという課題がありますよね。BuzzFeed JapanではPVだけでなく、たとえば記事のシェア数やコメント数などの指標がありますし、収入源をPVだけに頼らないビジネスモデルをつくっています。記事内容も、PVが稼げそうな速報ニュースではなく、一歩引いてある程度時間がたったニュースを再取材して取り上げる「スローニュース」に取り組むなど、試行錯誤しながら知見を蓄積しているところです。報道検証も2016年から取り組んでいるので、そのノウハウも提供できると思います。

ぼくらはこうした知見を提供したいですし、同時にほかのメディアさんが取り組んでいることや課題も共有しながら、より良い方向を模索したいですね。

この世の中で、社会課題の解決に携わる人たちの喜怒哀楽を伝えたい

下村:この記事を読む皆さんに古田さんの人となりも伝えたいのですが、そもそも古田さんがジャーナリズムを志したきっかけを教えていただけますか。

古田:記者を目指したのは大学生の時です。いまもその瞬間のことをはっきり覚えています。当時インドのコルカタで、身寄りのない行き倒れの人を看取るボランティアをしていたのですが、その時に、ボランティアと死にゆく人たちの間に友情が芽生えているのを見て、とても感動したんですよ。「これを誰かに伝えたい」と思いました。

世の中には貧困や格差があります。ある意味、ひどい状態です。同時にそれを何とかしようと頑張っている人たちがいて、連帯も生まれる。そういう美しい世界があるんですよね。そういう人間の喜怒哀楽を誰かに伝え、共有したいと思ったんです。答えはわからなくても、「ここにこういう課題があるよ」「解決策かもしれないものがあったりするよ」ということを共有することはできるな、と。それで記者になろうと思いました。

新聞社に入社した時には「3年で辞めます」と生意気なことをいっていたのですが、実際に働いてみると、学ぶことが本当に多くて。優秀な先輩や同期、後輩もたくさんいて、「3年といわず、もっとここで働きたい」と思っているうちに13年が経ってしまいました。

下村:でも、結局辞めて、そこからBuzzFeed Japanに移った。それはなぜ?

古田:新聞記者のころから紙が読まれなくなっている実感がありました。ぼくは書くことよりも、伝えることの方にモチベーションがあったので、「デジタルならもっと伝わるかもしれない」と考え、新聞社のデジタル部門に移りました。

そうしたなか、BuzzFeedが日本に来るという話を聞いて、最初は取材で会いに行ったんです。そこでBuzzFeedの戦略とか理念とかを聞いているうちに、「編集長にならないか」と誘っていただき、その日の昼には新聞社に「辞めます」と伝えました(笑)。

下村:そこで転職したからこそ、このJIMAに関わることになったわけですね。最後に、この記事を読んでいるネットユーザーの方にメッセージをお願いします。

古田:まずはこれからJIMAでいろいろな情報を発信をしていくので、それを見ていただきたいと思います。

それから、下村さんが取り組んでいるメディアリテラシーも展開していきたいですね。情報のなかには、嘘や間違い、それにある種の意図が含まれているものもあるので、そういうことを知ったうえで、「健全な」疑いを持って情報を摂取しなければいけない。そういうことをみなさんと共有し、考えていきたいと思います。

下村:ありがとうございました。

これからも、JIMAに集った各媒体の編集長さんから、順次この場でお話を伺っていきたいと思います。

(まとめ:岩崎史絵/写真:ATZSHI HIRATZKA)