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[JIMA講座]メディア従事者が知っておきたいインターネット広告 ——なぜネット広告はテレビCMを超えたのか? メディアが知っておきたい広告主の本音

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押久保 剛 株式会社翔泳社 メディア部門 メディア編集部 部長/統括編集長

 

最古の広告は、トルコ・エフェソスにある売春宿の案内が書かれた石とも、エジプト・テーベ遺跡から発掘された逃亡奴隷に関するパピルスともいわれます。
そんな広告の世界にパラダイムシフトをもたらしたのが、いまやテレビCMを超えて2兆円産業となったインターネット広告です。
なぜインターネット広告が、広告・メディアにおいて存在感を増し続けるのか。インターネット広告の歴史、広告主の期待感とは? そしてその課題とは?
マーケティングと広告について長くメディア運営に携わってきた翔泳社の押久保剛氏にそのポイントを語っていただきました。(事務局)

構成

  1. 躍進を続けるインターネット広告
  2. 歴史から振り返る、インターネット広告の長所
  3. テクノロジーから見るインターネット広告の特徴
  4. 広告主はメディアに何を求めているのか
  5. データ規制、信頼性……変化するインターネット広告の環境

1. 躍進を続けるインターネット広告

この15年間、インターネット広告の成長は増す一方です。毎年2月(2020年は3月)に株式会社電通が発表している「日本の広告費」によると、インターネット広告は倍々ゲームで伸びていて、2020年には2兆円を突破し、ついにテレビCMの出稿費を超えました。

テレビCMはそれでも踏みとどまっているものの、新聞・雑誌広告は2003年ごろから減少の一途をたどり、厳しい状況が続いています。国内の広告市場は、当分の間、インターネット広告とテレビCMの2軸で進んでいくと見られています。

広告市場の推移

  • 媒体別広告費の推移
  • テレビとインターネット広告費の比較

出典:ネットが初のテレビ超え:広告費に見る時代の転換点 https://www.nippon.com/ja/japan-topics/g00937/

なぜインターネット広告はここまで成長したのでしょうか?
その一因として、テレビや雑誌より、インターネットの方が、日常的に接触するメディアとして存在感を増しているという現実があります。

博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所が発表した「メディア定点調査2020」によると、テレビ・新聞・雑誌・ラジオのメディア接触時間は年々減少もしくは現状維持という状態です。代わりにスマートフォンへの接触が大きく伸びています。広告はそもそも「人が集まるところ」に掲載するのが鉄則なので、スマートフォンからの接触増を受け、インターネット広告の取引額が増大しているのもうなずけます。

インターネット広告を下支えしている要因はもう1つあります。それがテクノロジーの進化です。テクノロジーが広告領域に介在することで、これまでのアナログ広告ではできなかったさまざまなメリットが生まれました。そのメリットこそ、広告主がずっと求めていたものでした。

2. 歴史から振り返る、インターネット広告の長所

広告主が求めていた“メリット”とは何でしょうか。それは広告効果を数値化し、検証を可能にすることでした。

19世紀末、米百貨店王との異名を取り、現在も「マーケティングの先駆者」といわれているジョン・ワナメーカー(John Wanamaker)は、次のような言葉を残しています。

「広告費の半分が金の無駄使いに終わっていることはわかっている。わからないのは、どっちの半分が無駄なのかだ」

インターネット以前、広告効果を数値化することは困難でした。新聞とテレビに出稿しても、どちらの方が効果的だったのが、測りたくても測れない。ところがインターネット広告なら、この課題を解決できる。何人が広告を見たのか、そのうち購買に結びついた割合はどれくらいか、どのメディアが最も効率的だったのか——テレビ・新聞・雑誌・ラジオの4マス広告では難しかったこれらの効果測定について、「数値化する」というデジタルの強みを生かし、可能にしたのがインターネット広告でした。

現在、インターネット広告の主流は「運用型広告」になっています。
運用型広告とは、文字どおり出稿を「運用」できる広告のことです。具体的には、広告掲載費・閲覧数・クリック率・コンバージョン率(広告を見て、登録や購買など、ユーザーの行動変容が起こった率)などの数値を見きわめ、効果を最大化するために配信を調整していくタイプの広告です。この運用型広告こそ、インターネットが広告にもたらしたパラダイムシフトといっていいでしょう。

運用型広告の原型は、「検索連動型広告」です。2002年にOverture(現ヤフー)とグーグルが日本での、検索連動型広告の提供を開始しています。用語を検索すると、そのキーワードに関連する商品・サービスを表示する広告で、現在でもネット広告分野で大きな地位を占めています。

これをさらに発展させ、国内において2012年頃からアドテクノロジー(アドテク)が本格的に普及していった印象です。複雑な広告出稿の配信や運用を、テクノロジーを活用して高度化したもので、膨大なデータを分析し、見込みの高いユーザーをめがけて広告を配信する「ターゲティング」が頻繁に行われるようになりました。

これを象徴する言葉として、「枠から人へ」と呼ばれるキャッチコピーがありました。枠=「どのメディアのどの広告枠に出稿するか」ではなく、人=「見込み度の高いユーザーに広告を表示する」という意味で、「アドテクはインターネット広告の効果を最大化するソリューション」と考え、関心を寄せる広告主が一気に増えたのです。

3. テクノロジーから見るインターネット広告の特徴

以上のように、インターネット広告は、テクノロジーを活用することでその効果を数値化し、より高い広告効果をあげるために発展してきたといえます。

実際、見込み度の高いユーザーをターゲティングして広告を出し続ければ、一定以上の効果は見込めます。「リターゲティング」と呼ばれる手法です。

さらに、ユーザーの行動を細かく分析することで、気持ちや意識の推移を洞察することも可能です。これは「モーメント」と呼ばれます。たとえば、「旅行 海外」と検索した人が、「ハワイ おすすめ」「ハワイ ツアー」とキーワードを変えていくことで、だんだん興味関心が固まってきていると類推できます。この瞬間に、ハワイ旅行の広告を表示すれば、申し込みする可能性は高い。このように、ターゲティングとモーメントを逃さず、狙って広告を配信できるのが、インターネット広告のメリットなのです。

特徴:ターゲティング/モーメント(瞬間)

  • 主要なターゲティングの例
  • モーメントを捉える

出典:デジタル時代の基礎知識『広告』 https://www.amazon.co.jp/dp/4798159751

データの蓄積量が増えるほどに、ターゲティングやモーメントの精度は向上します。「ターゲティング」「モーメント」、この2つを支える「データ」があることで、インターネット広告は従来の4マス広告と決定的に異なるものになるわけです。

ただ、行き過ぎたリターゲティングは、近年は敬遠される傾向にあります。後で述べるように、広告配信に活用するデータの規制も始まり、「テクノロジー一辺倒で最大効果を上げる」という広告手法は、やや見直されるようになってきています。

4. 広告主はメディアに何を求めているのか

ここで広告主の動向も見ておきましょう。

翔泳社のデジタルマーケティング専門メディア「MarkeZine」が制作する調査資料によると、「昨年と比べてデジタル広告への予算が増えた」という企業は34.5%、「変わらない」という回答は19.2%でした。半数以上の広告主は、インターネット広告への期待・投資を今後も続けると見られます(『マーケティング最新動向調査2021』)。

では、広告出稿の戦略を立てる担当者は、出稿先であるメディアに何を期待しているのでしょうか。同じくMarkeZineが、グローバルブランド企業の元宣伝部担当者にヒアリングしたところ、「リーチだけでなく、人を動かすこと」「メディアの出稿を通して何を得られるのか、数字で語ってほしい」ということを期待していると言います。

「宣伝部」といえば、営業に紐付くマーケティング部と異なり、ブランド認知の拡大やターゲット層へのリーチを目的に広告を活用しています。いってしまえば、“ふわっ”とした目的であり、数値化しにくい面もありました。それがいまや、認知だけでなく、「広告を通じて自社サイトにどれくらいの人数が訪れたのか」「そのうち、どれくらいが目的のコンバージョンにつながったのか」、数字で説明することを求めているということです。

そのブランド企業では、ターゲットとクリエイティブとメディア(パブリッシャー)を掛け合わせ、かかったコストや広告表示数、CTRを調査し、配信を広げるか、停止するかをシビアに判断しています。そして「このPDCAサイクルをよりスピーディーに回したい」という希望もあるそうです。

これに関連し、「機会があれば、広告代理店をはさまず、直接メディア側と話をしたい」という希望もあということです。いまの商流では難しいのですが、広告主の希望をメディアが直接聞き、より付加価値の高い提案があればそれを検討したいという意向があるのです。少なくとも広告主に寄り添い、より良い提案をする準備を整えていくことは必要でしょう。

余談ですが、運用型広告ならではの不安もあります。最大の不安は、「条件によって出稿先は、アドネットワークが自動的に割り振るため、どんなメディアに自社の広告が掲載されているのかが広告主側にわかりにくい」というものです。女性向け製品なのに、男性むけファッションサイトに掲載されるというくらいならまだしも、反社会的なサイトや、クリック数を稼ぐような詐欺サイトに掲載されていたら、ブランド価値が著しく損なわれてしまいます。こうした点から、透明性の確保は広告・メディア業界共通の課題であり、全体で取り組んでいくことが必要になります。
いずれにせよ、インターネットで広告効果が数値化されたことで、ブランド広告/販促広告に関係なく、広告主が「数値で判断し、より良い打ち手を検討したい」と考えていることがわかります。

5. データ規制、信頼性……変化するインターネット広告の環境

以上のように、インターネット広告は、勘と経験で成り立っていた領域にテクノロジーで切り込み、従来のアナログ広告では不可能だった「数値」と「効果」を明確にしました。その一方、過度なターゲティングにより、「何度も同じ広告が追ってくる」という“ストーカー広告”を生み出し、ユーザーの拒否反応を招いてしまった面もあります。あまりにも速くテクノロジーが進化したゆえに、ユーザーに与える心理的影響やプライバシーを考えることなく、効果効率のみで成長してまったともいえます。

そんなインターネット広告を取り巻く環境が、ここ数年で大きく変化しようとしています。
最大の変化は、データ規制の潮流です。
世界的にユーザープライバシー保護の気運が高まり、ユーザーをターゲティングする際に使われるCookieデータの利用が規制されるようになってきました。現在、主要Webブラウザでは、ターゲティングに使うサードパーティCookieをサポートしなくなっています。その代替として、企業利用の同意を得たユーザーからデータを集め、マーケティング戦略に利用できる「ゼロパーティ」データや「情報銀行」が注目されている。また、最近では、WebコンテンツをAIで解析し、その内容に即した広告を表示する技術が生まれており、今後の動向が注目されています。

同時に、忘れてはならない業界全体の喫緊の課題があります。先述した広告の信頼性担保です。これは1社で対応できることではないので、メディア業界・広告業界全体で、信頼性を担保できる仕組みを考えていく必要があります。

そもそも広告は、冒頭に紹介したように、メディアの進化とともに発展してきた歴史があります。新しいメディアやアプリが登場し、それが多くの消費者に受け入れられれば、人が集まるようになります。そこで広告主が広告を出す。この基本ルールは、いかにメディアの形態やテクノロジーが変化しようと変わらないと思われます。ただ、そうした変化に対し、広告主とユーザー(消費者)の間で、若干の認識ギャップがあるのも確かです。

広告会社のカンター・ジャパンが2020年10月に発表した「グローバル広告エクイティランキング」によると、消費者はオンライン(インターネット)よりも、新聞や雑誌などのオフライン広告に信頼を置く傾向があり、また同じジャンルのメディアでも、マーケターが広告を出稿したいメディアと、消費者が好むメディアとの間にギャップがあるといいます。たとえば「動画広告」といえば、マーケターは「インターネットの動画サービスに広告を出そう」と判断しがちだが、消費者は「映画広告」を好む傾向があり、同じ動画サービスといえど、マーケターから評価の高いYouTubeより、消費者が好むのはTikTokだとしています。

何で違いを出すか

  • 2020年世界の消費者・マーケターが好む広告チャネル各上位5
  • 2020年世界の消費者・マーケターが好むデジタル広告プラットフォーム各上位5

出典:カンター・ジャパン 2020/10/1発表 https://www.kantar.jp/solutions/reports/16940

こうしたギャップを埋め、ユーザーから受け入れられる広告戦略がメディア側から提案されれば、広告主は真剣に耳を傾けるのではないでしょうか。
広告の歴史、進化はこれからも続くので、広告主の期待に応えられるように、メディア側も常に準備しておくことが大切です。

(まとめ:岩崎史絵)

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