ニュース : 自殺報道を考えるプロジェクト

自殺報道ガイドラインを考える〜海外の事例から①韓国編〜

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 海外では独自に「自殺報道ガイドライン」を定めている国があります。このうち、韓国、米国、豪州について、その概要を見ていきます。

まず、日本と同様に自殺が多く、また自殺報道も過熱しがちな韓国での取り組みを紹介します。

韓国では「自殺報道勧告基準」と題したガイドラインが制定され、官と民、メディアをあげての自殺対策の活動がさかんです。

 韓国で「自殺予防専門家が勧告する言論の自殺報道基準」が制定されたのは2004年でした。韓国自殺予防協会、政府・保健福祉部、韓国記者協会の共同作業によるもので、2013年に韓国中央自殺予防センター、政府・保健福祉部、韓国記者協会がいわゆる「自殺報道基準2.0」に改定します。さらに、2018年7月には現行の「自殺報道勧告基準3.0」へと改定されました。組織改革も進み、2021年には韓国中央自殺予防センターと心理学的剖検センターが「韓国生命尊重希望財団」に統合されました。

 「自殺報道勧告基準3.0」は、前文で、自殺報道でのマスコミの社会的責任を明記すると同時に、テレビや新聞、ネットメディアなどに加え、警察や消防などの国家機関、さらに個人のSNSやブログ、オンラインコミュニティなどもガイドラインに留意しなければならないとしています。

 さらに、3つの基本骨子と5つの原則が挙げられています。

  基本骨子は「自殺報道は社会的責任が伴う」「不適切な自殺報道は人を死に追い込む可能性がある」「自殺報道の方法を変えれば大事ないのちを救うことができる」と、報道の責任と影響力を明確にしています。

 5つの原則は

 ①記事のタイトルに「自殺」や自殺を意味する表現の代わりに「死亡」「亡くなる」などの表現を使う

 ②具体的な自殺方法、道具、場所、動機・原因などについて報道しない

 ③自殺と関連した写真や動画の掲載は模倣自殺を引き起こす可能性があるため、留意しなければならない

 ④自殺を美化したり,合理化したりしないで、自殺によって生じる否定的な結果と自殺予防の情報を提供する

 ⑤自殺を報道する際には故人の人格と遺族の私生活を尊重する

 となっています。

 最新版の特徴として、ガイドラインの各項目に関連する実際の新聞記事やテレビ放送の画像が、「良い例」「悪い例」として掲載されています。自殺が起きた現場や遺影の写真をもとに個別具体的に指摘しています。また、「就職できずに自殺」といった自殺の動機を断定するような見出しを避けることや、どのような言葉や表現、写真・映像の使用が望ましくないかを分かりやすく伝えています。

 韓国の取り組みで特徴的なのは、韓国生命尊重希望財団を通じて、メディアとの交流が活発なことです。記者研修をメディアと共同で開いているほか、良質な報道を4半期ごとに選び「生命尊重優秀報道賞」として表彰しています。

 韓国生命尊重希望財団のホームページに公開されている最近の取り組みをみていくと、

第1四半期には、世界日報警察チームのキム・ユナ、キム・スンファン、ユ・ジヘ、イ・ジョンミン、ク・ヒョンモ、チャン・ハンソ記者が「あの子が送った最後のサイン」▽第2四半期には、MBCのチョン・ヘイン記者が「人救う消防士・・彼らはなぜ死を考えるのか」▽第3四半期には、週刊朝鮮キム・ヒョジョン記者が「20代女性が危険だ!自殺率急上昇の理由」▽第4四半期には、韓国日報ソン・ソンウォン記者が「心の掃除」で、それぞれ表彰されています。

 また、2023年1月から2月にかけて自殺報道勧告基準についての記者研修が3次にわたって実施されています。2022年はインターネット新聞委員会と共同で、ネット担当の記者の特別教育コースが3回にわたって行われました。

 ガイドラインをつくるだけでなく、自殺対策の関係者が常に記者と交流し、意見交換する場ができています。(つづく)

筆者:小川一/毎日新聞客員編集委員・元JIMA理事

参考文献 

・自殺対策白書(令和4年版)コラム4:諸外国の「自殺報道ガイドライン」=一般社団法人 いのち支える自殺対策推進センター(厚生労働大臣指定法人)広報官 山寺香 朴惠善

・韓国記者協会 ホームページ

 http://www.journalist.or.kr/news/section9.html?p_num=2 

・韓国生命尊重希望財団 ホームページ 

 https://www.kfsp.or.kr/web/board/5/?pMENU_NO=207

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【プロジェクトの概要について】
自殺報道、とりわけ有名人の自殺をめぐる報道では、詳細かつ過剰な報道が繰り返され、さらなる自殺の誘発が懸念されています。WHOのガイドラインを大きく逸脱している報道も散見され、メディア不信にもつながっている状況です。
そこで、会社や組織を超えて自殺報道に対する知見を共有し、課題の洗い出しとその克服が必要だと考えます。
こうした社会的要請に応えるため、インターネットメディア協会では、自殺報道について考える議論の場をつくり、より信頼される報道の実現とともにインターネットメディアの信頼を高めたいと、協会の有志メンバーにてこのプロジェクトを発足しました。
これまでは、評論家の荻上チキさんを招き、会員社向けに自殺報道ガイドラインの勉強会を実施するなどしてまいりました。今後も会員社の知見を高めるべく活動していく予定です。