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自殺報道ガイドラインを考える〜海外の事例から②オーストラリア編〜

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海外の「自殺報道ガイドライン」について、今回はオーストラリアの取り組みを紹介します。

 オーストラリアのガイドライン「自殺と精神疾患に関する報道─メディア関係者のための手引」は、メンタルヘルスと自殺予防に取り組む研究機関「エブリマインド」が中心になって作成されました。エブリマインドは、1992年にニューキャッスル大学の中に設置されたハンター精神衛生研究所を起源にしています。最初はニューイングランド地方のメンタルヘルス問題を扱う小規模な機関でしたが、徐々に活動の分野を広げていきました。政府からの資金提供も始まり、カウンセラーの育成をはじめ様々な自殺対策を展開する中で、ガイドラインがつくられました。

 ガイドラインは2002年に初版がつくられ、その後、5回の改訂を重ね、2020年版が最新版となっています。オーストラリアでは、1990年代にもガイドライン作成を試みましたが、メディアとの協力態勢をとっていなかったために、実効性のあるものができなかったといいます。その反省から、メディアと連携しながら共同作業を続けています。このため、いわゆる「べからず」型のガイドラインとは趣が異なり、報道の質を高めるためのガイドブックにすることを意識した構成になっています。

 内容は①自殺に関する報道と描写②精神疾患に関する報道と描写―の2部から構成されています。序文冒頭では「自殺や精神疾患に対する社会の態度や認識を形成し強化する上で、メディアは重要な役割を担っています」とメディアの責任の大きさを指摘しています。

 ①は「研究結果」「報道による効果」「報道にあたっての推奨事項」「報道の具体例による考察」「相談機関の周知」「安楽死・自傷行為など自殺に関連する分野での留意点」の項目に分かれています。「研究結果」では、100以上の国際的な研究が、自殺の増加と自殺報道の密接な関係を示していると指摘しています。そして、項目ごとにそれぞれ報道の留意点を細かく挙げています。自殺に関するデータを正しく解釈し報じるための助言、自殺の報じ方等についてメディアが相談できる組織や専門家の連絡先、メディア関係者自身のセルフケア、オンラインでの留意点、自殺念慮を抱える人や自殺未遂経験がある人へのインタビューに関する助言など、その内容は多岐にわたっています。

「先住民コミュニティでの自殺について報じる際の留意点」というオーストラリアならではの項目もあります。

 ②も①と同じような項目で構成され、「サイコ」「狂人」など避けるべき言葉とその理由、「精神疾患で苦しんでいる」のではなく「精神疾患で治療を受けている」との表現を推奨するなど、精神医療の現場からの提言が数多く盛り込まれています。また、問題のある報道の多くが、警察取材、裁判取材からもたらされていると指摘し、問題を回避するための留意点を挙げています。

 エブリマインドは、メディア関係者だけでなく、様々な表現者向けにガイドラインを作成しています。映像クリエーターに向けたガイドラインでは、序章で「写真は千の言葉に値します。古いことわざですが、ますますデジタル化が進むこの世界では、それはますます関連性と重要性が増しており、私たちが思いやりを持って受け入れる必要があるものです」と指摘し、画像制作の際の留意点を細かく論じています。また、脚本家や演出家に向けた「ステージとスクリーン」のガイドラインもつくられています。また、メディア関係者には、自殺とは別に、「暴力と犯罪」についての報道が、精神疾患にどのような影響をもたらすかを指摘した別のガイドラインも用意されています。いずれも精緻で重層的で、自殺対策の研究の質の高さを感じさせます。

筆者:小川一/毎日新聞客員編集委員・元JIMA理事

参考文献 

・自殺対策白書(令和4年版)コラム4:諸外国の「自殺報道ガイドライン」=一般社団法人 いのち支える自殺対策推進センター(厚生労働大臣指定法人)広報官 山寺香 朴惠善

エブリマインドによるマインドフレームのホームページ
https://mindframe.org.au/guidelines