シリーズ : メディアの現場から

「インターネットを良くする」ために、はてなは何をする?——はてなサービス・システム開発本部長 大西康裕さん、同プロデューサー 磯和太郎さん

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聞き手:JIMA理事/令和メディア研究所 主宰 下村健一さん

2001年創業の株式会社はてなは、ブログやソーシャルブックマーク、「人力検索」などのユニークなサービスを運営してきたWebサービス企業。1990年代のインターネット登場時にあった、「ネットの自由さや面白さ、そしてオープン性」というカルチャーを踏襲し、ユニークな事業を展開し続けています。
そんなはてながインターネットメディア協会(JIMA)へ参画したのは、2019年7月のこと。同社はJIMA参画企業のなかで初のCGM(Consumer Generated Media:ユーザーがコンテンツを生成するメディア)プラットフォームであり、ニュースサイトや新聞社とは異なる新しいメディア企業として、今後JIMAでの活躍が注目されています。
はてなの志は、JIMAと同じく「インターネットを良くする」ということ。実際、「インターネットを良くする」ために、はてなはある取り組みを進めてきました。その取り組みと、JIMAにかける思いについて、はてなのキーパーソンの2人、執行役員 サービス・システム開発本部長の大西康裕さん、そして、サービス・システム開発本部 第2グループ プロデューサーの磯和太郎さんが、JIMA理事の下村健一(令和メディア研究所)に話してくれました。(事務局)

ユーザーにもっと近くで関わりたくて

下村:今回、この「メディアの現場から」シリーズでは初の鼎談となります。そこでまず、磯和さん、大西さんおふたりのプロフィールと、メディア業界に入られたきっかけについてお聞きしたいと思います。

磯和:はてなでBtoB向けを中心としたコンテンツマーケティングサービスを手掛けています。大学時代に政治学を専攻していて、メディア論のゼミに入っていたんです。当時はちょうどインターネットプロバイダーが登場した時期で、インターネットが民主主義に与える影響などが注目されており、その流れでメディア論のゼミに入りました。
メディアにはもともと興味がありました。音楽が好きで、高校生のころには当時開局されたばかりのWOWOWで洋楽番組を観ていましたし、同じ時期に始まったデジタルラジオ放送では「放送のデジタル化」ということが話題になったり、そういうなかでメディア自体に関心を持っていたんです。あと、テクノロジーも好きだったんですよ。趣味の分野としてメディアの面白さを感じ、大学時代にはそこに政治学的な考え方が出てきて、テクノロジーの先進性もあいまって、それでメディアに興味を持ったわけです。
大学を卒業後はSI企業でエンジニアとして働き、その後インフォバーンへ、そして「ユーザーにもっと近いところでメディアに関わりたい」と思って、はてなに入社しました。

はてなサービス・プロデューサー 磯和太郎さん
はてなサービス・システム開発本部 プロデューサー 磯和太郎さん

下村:大西さんはいかがですか?

大西:私はプログラミングが好きなパソコン少年で、エンジニアとしてはてなに入社したんです。だからあまり「メディア人」という感覚がないんです(笑)。
エンジニアとしてはてなで働いて10年、「はてなブログ」が立ち上がるタイミングでディレクターとなりました。その前身の「はてなダイアリー」は、真っ白な日記帳サービスで「自由に使ってください」というものでしたが、2003年に開発したものだったので、システムが古くなり、リニューアルの必要があったんです。それと、このSNS時代に、あえて「長文を書き残すサービスを作りたい」という思いがあり、その2つの理由からディレクターになりました。

はてなサービス・システム開発本部長 大西康裕さん
はてなサービス・システム開発本部長 大西康裕さん

「インターネットを良くする」とはどういうことか

下村:そんなお二人が引っ張るはてなさんが、JIMAに参加された理由は何ですか。

磯和:前職のインフォバーンのつながりで、現在JIMAの理事であるDIGIDAY[日本版]編集長の長田 真さんがFacebookでJIMAの「設立準備」について書かれているのを読んで知ったんです。それで「面白そうな取り組みだな」と思って、長田さんのFacebookをずっとウォッチしていました。そこでJIMA設立シンポジウムがあることを知り、参加したところ、「インターネットを良くしたい」という思いが端々から感じられ、感銘を受けたんですね。

というのは、はてなも「インターネットを良くしたい」という思いで事業を展開しており、ユーザーさんの発信内容に任せっぱなしにするのではなく、「きちんとしたメディアとしてのポリシーを打ち出していこう」という取り組みを進めている最中だったんです。そこでJIMAの趣旨を伺って、これは参加した方がいいのではないか、ということで、上司の大西を説得したわけです(笑)。

下村:その「インターネットを良くしたい」というのは、具体的には?

大西:はてなは、ユーザーの方が生み出すコンテンツをパブリッシュする「はてなブログ」と、それを流通させる「はてなブックマーク」というサービスを持っています。われわれは「コンテンツプラットフォーム」と呼んでいるのですが、こういったユーザーが自由に発言できるサービスは、ともすればネガティブな方に流れがちです。
私たちは、はてなやほかのプラットフォームで面白いコンテンツが生み出され、それが世の中に広まることが、大きな価値だと捉えています。そのために、「これはいい」「こういうことは止めましょう」ということを打ち出していった方が、もっといい状態になるのではないか、と考えました。そこでコンテンツプラットフォーマーとして、ツールとサービスを提供するだけでなく、「ガイドラインやポリシーを打ち出していくことが必要だね」といっていた時期に、まさにタイミング良くJIMA設立の話があったわけです。

下村:これまでガイドラインやポリシーはどうしていたんですか。

大西:はてなダイアリー時代から16年以上ブログサービスを運営してきていますが、ガイドラインなどの運用基準を定めてはいましたし、情報削除事例の公開など先進的な取り組みもして来ましたが、プラットフォーマーとしてポリシーを公開はしていませんでした。でも、いまの時代はもうそういう時代ではないと思ったんです。だから本当に、タイミングが良かったんですね。

インターネット原始時代の終わり

下村:タイミングが合ったのは偶然というよりは必然で、つまりインターネットがそういう時期に来ているのかもしれないですね。

磯和:そうですね、環境を見直さないといけない時期に来ていると思います。先日、日本新聞協会が「2018年新聞オーディエンス調査概要リポート」を発表しましたが、これによると「インターネットから得る情報の信頼度は著しく低い」という結果でした。これだけインターネットがマジョリティになり、「テレビよりネット」といわれるなか、信頼されていないというのは、ネット事業を展開する側として大きなジレンマを感じ、何とかしないといけないと感じますね。

下村:インターネットが地球上に現れてからこれまで、アクセル踏みっ放しのものすごいスピードと勢いで普及して来ましたが、いままさにブレーキも時々併用しようか、という第二期に入りつつあるのかも…。

大西:ネットコンテンツの信頼性は非常に低いとされていますが、実際に配信される情報量は圧倒的に多く、今後さらに増えていくと予想されるなか、どういう風に信頼性を担保するかというのは大きなテーマですし、まさに転換期だと思います。そういうタイミングで、はてなも今後、プラットフォーマーとしての立場をより示していくつもりです。まずは、この9月に「コミュニティガイドライン」を発表しました。

下村:ホットニュース! それによってこれからどんな変化が起きるのか、注目ですね。
いま転換期という話がありました。「インターネットを良くするために、ポリシーの策定はもはや必然的な流れ」という見方がある一方で、それに対して「インターネットは自由だからいいんじゃないか。ガイドラインやルールに従って行儀が良くなると、自由さが失われるんじゃないか」という意見も根強くあります。特にはてなさんは、インターネット黎明期にある自由さやオープンさを知り、そういうカルチャーのなかでサービスを展開してきましたが、こうした意見についてはどうお考えですか。

磯和:そうですね。ただし、ルールといっても、縛るほうのルールはすでに整備されていますし、基本的には、それに沿って使っていただいています。これからは、縛るルールではない方向で考えているんです。そちらも難易度が高いけれど、やりがいも意義もある。

大西:インターネットの世界は、サービスを出してからがスタートです。だからポリシーやガイドラインも、出してから実際のコミュニティの状況、社会情勢を見ながら、より良いものを作っていく。無限の改善が続くわけですが、それはWebサービスもガイドラインもそれほど差がないと思います。

「北風型」のガイドラインではなく

下村:ガイドラインを「ユーザーに指し示す」ことと、CGMの「ユーザーが生成する」こととが、どこかで背反する懸念はありませんか。

磯和:ユーザーが生成するという部分は変わらないと思います。ただ、その量や裾野がすごく広がって個人発信であってもメディアとしての存在感が増すなか、《すべてを等しく扱う》のではなく、「こういうのが良いもの」であり、《良いものが目に届きやすくなる》ようにする。はてなとしては、そのような形でインターネットを良くしていきたいと考えています。

大西:インターネットの良さはやっぱり「オープンさ」です。われわれのようにユーザーのコンテンツを預かる立場の場合、「これはダメ」と否定するより、オープンにたくさん情報を出していただき、そのなかで「これはいいね、こういう表現をすれば受け入れられるよね」ということを示唆として提示し、みんながだんだんその方向に変化していけばいいと思うんです。「北風と太陽」でいえば、太陽的な存在になっていければいいな、と。

下村:太陽的なガイドラインって…具体的には?

磯和:まずは、はてなとして大切にしている価値観を出したうえで、不適切だから止めてほしいこと、信頼性を上げるためにこうした方がいいということを提示していく予定です。たとえば「ユーザーコミュニティに交わる場合は、他者への敬意を持つようにしましょう」とか、インターネットに限らず、基本的なことをきちんと提示するイメージです。あとはダイバーシティ、異なる価値観も大事にしていこう、などがありますね。

大西:これまであったようなユーザーの行動を制限するためのポリシーではなくて、ユーザーがお互いの自由を尊重し合うための指針となるようなポリシーです。誰かが自由を主張して、それで誰かの自由が損なわれる、そういうときに、どう交通整理をするかという考え方を打ち出していこうという取り組みです。

あと、ブログのサービスを中心に話をして来ましたけれど、インターネットを良くするためにはてなでできることはまだあると思います。
たとえばはてなブックマークは、一種のコンテンツの評価システムとなっているわけですが、そのユーザーの評価行動をミックスすることで、良いコンテンツの評価基準が見えてくるかもしれません。ブログとブックマークサービスの両方をやっていることで、より良いインターネットへの貢献ができると思っています。

「われこそはメディア」という企業こそ、JIMAに参加してほしい

令和メディア研究所主宰 下村健一さん
令和メディア研究所主宰 下村健一さん

下村:JIMAにはてなさんが参加されたこと、これはJIMAにとって象徴的な出来事だと私は思っているんです。インターネット“ニュース”協会ではなく、インターネット“メディア”協会である、ということでね。

大西:先ほどから話に出ているように、はてなという会社は、CGMとはいっていましたが、メディアとしての方針は表明していませんでした。
ですがはてなブログで「長文を書いて、蓄積していきましょう」ということを明確にしたり、ポリシーを明らかにしたりというように、ようやく自分たちもメディア人としての自覚が出てきたような気がします。自分たちをメディアと捉え、自分たちの方針を決めていこうとなって、これからようやくメディア人に仲間入りさせていただく気持ちです(笑)。

下村:この仲間入りは、いろんな相乗効果を生んでいきそうですね。さて最後に、この記事を読んでいるネットユーザーの皆さんへのメッセージをお願いします。

磯和:私たちはCGM系のメディアとして最初にJIMAに加入しました。「メディア」の定義を広くとると、本当にいろいろで、「人もメディアだ」という見方も成り立つと思います。だから、「われわれもメディアだ」と思っている企業にはぜひ参加していただき、一緒にメディアを良くするために、いろんな視点からの叡智を集め、活用していく場にしていけるようにしたい。協会の方には、多様な企業に入ってもらえるように、これからの活動について期待しています。

下村:先に「メディアとは」という定義ありきではなくて、「われこそがメディアだ」という主体が集まることで、メディアの新しい定義ができていくわけですね。大西さんはいかがですか。

大西:はてなは会社のミッションとして、「知る」「つながる」「表現する」という3つの言葉を定義しています。人と情報がつながって、さらにいえば「表現する=自分からどんどん発信する」ことで、人生や生活が豊かになる。そういう意味で、はてなは「みなさんがメディアになってください」といっているに等しいのでしょう。
ただ、誰もがメディアになるということは、誰もが発信できるという自由がある一方、責任も伴います。不適切な発信に対しては社会的に問題になったり炎上してしまうようなリスクもあるということです。そういうことがないように、安心して「知る」「つながる」「表現する」というインターネット社会を作っていきたい。そう思って、JIMAで活動していきたいと思います。

下村:いまの時代、インターネットは活かし方を間違えると「つながる」転じて「分断する」道具になりかねないですからね。ぜひ、いい世界をつなげていきましょう。

(まとめ:岩崎史絵/写真:ATZSHI HIRATZKA)