JIMA メディアリテラシー講座:第1回レポート 〜《伝え手》達が学び直す、情報の《受け取り方》
インターネットメディア協会(JIMA)が主催する初の「JIMAリテラシー講座」が、2019年9月30日、東京・渋谷のスマートニュース社イベントスペースにて開催されました。
リテラシー教育というと、情報の受け取り方や捉え方、解釈の仕方など、受け手側への教育とされるケースが一般的です。JIMAリテラシー講座は、受け手だけでなく、情報の発信者である送り手側も対象にしており、初めて取材する分野の情報や予備知識のない情報に踊らされず、公平かつ中立的な視点でニュースを届けるスキルの向上を支援するものです。
初回の講座は特に、メディア業界で働く若手の方を対象に限定したもので、JIMA理事の下村健一が行っている小学生向けメディアリテラシー教育プログラムをベースに、予備知識のない情報を公平な視点で理解し、悪意・中傷のない見解で届けるためのチェックポイントを解説しました。(事務局)
メディア業界が情報リテラシーを学ぶ理由とは
メディア業界で働く若手の編集者や記者を対象に特化して開催された「JIMAリテラシー講座」。開催に先立ち、JIMA代表理事の瀬尾傑(スマートニュースメディア研究所 所長)が今回の講座の意義について、次のように説明しました。
「2019年4月に設立されたJIMAは、『ユーザーに役立つメディアを作ること』を目的に多くのインターネット関連メディア社/媒体が集まり、信頼性と相互性をもって社会貢献することを目指す団体です。活動の柱は2つあります。1つは、メディア業界を対象にさまざまな課題を考える講演を開くことで、初回は『炎上対策』について説明しました。もう1つが、JIMA理事で令和メディア研究所の下村健一によるリテラシー講座です。今回が初めての開催で、若手のメディア事業者の方を対象にしています。知らない情報に振り回されず、信頼性の高いニュースを届けるポイントについて、みなさんと一緒に考えていきたいと思います」(瀬尾)
講師を務める下村は、白鴎大学の特任教授として教鞭を取りつつ、小学国語教科書の執筆から企業経営者研修まで幅広い年代のメディア教育を展開している元ジャーナリスト。JIMAのWebサイトで連載中の『メディアの現場から』のインタビュアーとしても活動しています。キャリアのスタートはTBS報道局アナウンサーで、在局中は松本サリン事件の第一通報者に対する犯人扱い一色の報道に待ったをかけるスクープなど、公平・中立な取材を続けてきました。退社後は、市民メディアの支援や、また内閣官房内閣広報室の内閣審議官として、取材する方ではなく「される」側の視点に立つなど、さまざまな立場で社会の『情報災害を減災』すべく活動しています。
今回のメディアリテラシー講座は、そんな下村が自らの経験を通じて蓄積したノウハウが基となっており、ネット漬け世代にもネット拒否症世代にも、SNS愛用者にもプロ発信者にも通用するプログラムとなっています。
フェイクニュースの拡散を防ぐ2つの方法——ファクトチェックとリテラシー教育
そんな下村が危惧しているのは、フェイクニュースなどの「虚報」や悪意なき「誤報」の拡散が更に加速していることです。これに対する対策は、実は2つしかありません。
1つは、報道されたニュース内容に対するファクトチェックで、日本でもファクトチェック・イニシアチブ(FIJ)などの活動が始まっています。これは拡散済みの情報に対する措置なので、いわば「解熱剤」の役割です。
もう1つが、メディアリテラシー教育です。これはいわば、フェイクニュース等の“感染”を予防する「ワクチン」のような役割になり、今後JIMAが定期的に取り上げていく重要テーマでもあります。
もちろん、メディアリテラシー教育を受けたからといって、すべてのフェイクニュースを防げるわけではありません。ですが、その影響を減らすことはできます。特にニュース発信に関わるメディア事業の人たちに覚えておいてもらいたいのが、「知らない知識や情報に振り回されなくなる魔法のコトバ『4つのギモン』です」と、下村は説明します。
知らない情報に出会った時につぶやく「4つのギモン」
われわれが知らない情報に振り回されるのはなぜか。それは、「知らない」ことに加え、その情報が正しいのか、きちんと調べたり勉強したりする「余裕がない」からです。この2つの「ない・ない」状態が、情報を吟味せず、誤報や誤解を拡散するきっかけとなるのです。
そんな時に覚えておいてほしいのが、次の4つの疑問形です。この疑問をつぶやくだけで、知らないことやわからない情報をどう捉えていけばいいか、道筋が見えるはずです。
(1)「まだ、わからないよね?」=(即断するな)
→ 近年、Twitterなどで「こんなことが起こった」と報告される出来事が急増していますが、もちろんすべてが正しいわけではありません。たとえば熊本地震の時、「動物園の檻からライオンが逃げた」と写真付きで1時間で2万人にも拡散されましたが、実際によくよく検索してみると、情報ソースも写真も1つの出どころを元にしていることがわかったはず。それは「2万件」ではなく「1件」と数えましょう。「みんな言ってるから」と決めつけるのではなく、本当にそれが事実なのかわからないうちは、思い込みで拡散することは控えましょう。
(2)「これは報告かな? 意見・印象かな?」=(鵜呑みするな)
→ ニュースやSNS情報の多くは、事実描写(本当か嘘かはとりあえず措いておいて)のリポート部分と、記事を書いた人のオピニオン部分が混在しています。この2つを混同せず、事実描写部分だけを見きわめるように注意しましょう。この仕分け作業は、予備知識のない情報でも相当程度、識別できます。
(3)「ほかの見え方はないかな?」=(偏るな)
→ 事実描写の中には、本当の話だけでなく、誤報や虚報も混じっています。本当だとしても、物事は一方向だけで見たものが正しいとは限りません。そこで、普段から多様な情報源に当たり、多角的な視点を養うことが大切です。SNSで自分と違う意見の人をフォローしたり、想像力を鍛えるために、ある出来事を逆の視点から見る「逆リポーターごっこ」などの頭の体操を習慣化するのもおすすめです。なお今回の講演では、下村が書いた『10代からの情報キャッチボール入門』(岩波書店)や『想像力のスイッチを入れよう 』(講談社)をもとに参加者全員で色々なゲームを行い、さまざまなものの見方、捉え方を体感しました。
(4)「隠れているものはないかな?」=(中だけ見るな)
→ 情報とはすべてスポットライトであり、そこには必ず周囲の暗がりがあります。汗を拭きふき疑惑を説明している容疑者に注目すると、いかにも事実を隠すために緊張して汗をかいているように見えますが、実はスポットライトの外では、気温が高くて取調官も汗だくかもしれません。目に見えたものだけがすべてではなく、そこに「見えていない事実」があるかもしれないな、と常に想像力のスイッチを入れて可能性の視野を広げましょう。
伝える側が常に自分に問うべき「4つのジモン」
では、「4つのギモン」で情報を冷静に受け取った後、次にそれを発信する立場として、正しくニュースを伝えるにはどうすれば良いのでしょうか。
下村はこれに対し、「4つのジモン(自問)」の大切さを訴えます。
(1)「私は何を伝えたいのかな?」=(明確さ)
→ 自分がこの記事で伝えたいことは何なのか、記事を作る前に自分の胸に取材しましょう。日常会話より、格段に明確に。ここで手を抜くと、ネットの世界では「そんなつもりで言ったんじゃない」という誤解の火消しで、後で大変な苦労をすることになります。
(2)「キメつけていないかな?」=(正確さ)
→ せっかく自分の認識は冷静でも、記事の書き方が、偏見など片方だけのものの見方に寄っていないでしょうか? 事実を思い込みで補強した論旨を組み立てて結果的にミスリードしていないか、自問しましょう。
(3)「キズつけていないかな?」=(優しさ)
→ そんなつもりはなくても、誤解を生む表現だったり、特定の人を貶める結果につながりかねない論調になったりします。メディアの記事はそれだけ影響力が大きいので、人を不用意に傷つける表現になっていないか、常に自問しましょう。
(4)「これで伝わるのかな?」=(易しさ)
→ 誤解や誤報にならないためには、伝わり易さがポイントです。内輪の言葉、専門用語、必要な予備知識飛ばし、等々がないか。記事の表現や論調が本当に受け手に伝わりやすいか、自問しましょう。
メディアリテラシー講演を受けて——メディア関連者の「ホンネ」
講演の後半は、参加者4〜5人に分かれて、下村の話を受けてグループディスカッションに入りました。下村の講演内容に一定の理解を示しつつも、「実務にどうやっていまのやり方を落とし込んでいけばいいのか」「ある程度、煽りがあった方が記事が面白くなる」「流言や噂は昔からあるので、それはなくならないのでは」という意見や、「受け取る側が何を判断基準にしているのか、それも踏まえて考えないといけない」という声もあり、それぞれに下村が回答して更に理解を深めていきました。
また、「講義内容に納得しすぎて何の疑問もなかったため、『本当にそれが正しいのか?』とループに陥る」という感想もあり、下村は「それでこそ、今回の講演内容をご理解いただいたと思います」と答え、惜しまれながらも初のリテラシー講演は終了しました。
次回は「受け手」のリテラシー講座を12月に開催予定です。
次回 第2回 JIMAリテラシー講座
情報が無数に飛び交う、ネット社会。フェイクニュースやディープフェイクなど、ますます真偽不詳、玉石混交の度を強めています。こういう情報に対する対策として、きちんと使える形で身に付けたいメディア・リテラシー。
大好評下村メソッドの今回は、日々受け手として情報に接する、そして発信もする一般の方向けに公開します。
開催日時・場所
日時:2019年12月17日(火)19時〜21時半 (18時半開場)
場所:〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6丁目25−16 いちご神宮前ビル 2F スマートニュース株式会社 WESTオフィス イベントスペース
※原宿と渋谷の間の明治通沿い、1階にABAHOUSE HARAJUKU店が入っている いちご神宮前ビル(入口はABAHOUSEの左側)です。
対象
日々、「受け手」として情報に触れている一般の方々
お申込み
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参加費
- JIMA会員:各社2名まで無料
- 一般:2,000円/名