シリーズ : メディアの現場から

テクノロジーの力でジャーナリズムをビジネスとして成立させたい——JX通信社 米重克洋さん

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聞き手:JIMA理事/令和メディア研究所 主宰 下村健一さん

「社員の6割がエンジニア」というJX通信社は、実は記者が1人もいない通信社。Twitterを主とするSNSの投稿を情報源とし、テクノロジーを活用して情報収集やその確度の判定などを行い、報道機関や一般ユーザー向けにニュース配信サービスを提供しています。同社の代表取締役である米重克洋さんが目指すのは、テクノロジーの活用によって、ビジネスとジャーナリズムが両立する社会。いま、産業としての報道が直面している課題をテクノロジーがどう解決し、またインターネットメディア協会(JIMA)ではその課題にどう貢献していくのか。自身も現役の取材者であるJIMA理事で、令和メディア研究所の下村健一さんが、「記者ゼロ人の通信社」の米重さんに、報道産業が抱える課題、そしてテクノロジーやJIMAの果たす役割をどう考えているのか聞きました。(事務局)

テクノロジーにより「持続可能な報道産業」の実現を目指す

下村:このインタビューでは最初に皆さんがJIMAに入会した動機やきっかけなどをお伺いしているのですが、今回はまず、JX通信社の特色についてお話しいただけますか。そうすると御社がJIMAに何を期待し、どのようなことをやっていきたいのかがより理解しやすくなると思います。

米重:はい、ありがとうございます。私たちJX通信社は、これまで人間の記者が行っていた情報の収集や選別を、テクノロジーの力を使って行い、報道機関や企業に向け、ニュースを配信している通信社です。一般消費者の方に対しては、国内のニュース速報や、災害・地震速報を届ける「NewsDigest(ニュースダイジェスト)」というスマホアプリを提供しています。
特徴は、ニュースの素となる情報収集から、情報の確度、ニュース性を判定するまで、すべて機械が行っていることです。記者は1人もおらず、その代わり、社員の6割がエンジニアです。

JX通信社 代表取締役 米重克洋さん
JX通信社 代表取締役 米重克洋さん

下村:なぜそこまで徹底して機械化を推し進めているんですか?

米重:背景には、既存の報道産業が構造的に持っている「労働集約的な仕組み」に対する懸念があります。報道産業が将来も持続可能な形になるためには、「人間にしかできないことは人間が行い、機械ができることは機械に任せるという構造的な棲み分けが必要なのではないか」と考えました。そこで、テクノロジーを活用し、人間の負荷を減らしつつ、ニュースのクオリティを維持向上させる仕組み作りに取り組んでいます。
新聞社やテレビ局などの大メディアは、莫大な収益があったからこそ、人海戦術という手法が可能でした。しかし現在は、特に新聞社の場合、広告費も購読料も縮小するなか、それが通用しなくなっています。
だからテクノロジーを使い、たとえプロセスすべてを完全には自動化できなくても、機械で効率化することで人間にしかできない領域を線引きし、そこに人的リソースを集中させる。それが大切と考えています。

下村:それを「大切と考える」ところまでは多くの人が頭で理解できるんでしょうが、米重さんはそれを「形にする」ところまで実行したと。具体的には?

報道の常識にとらわれない、子供の頃の問題意識から

米重:まず、報道機関など企業・法人向けのニュース配信サービス「FASTALERT(ファストアラート)」では、SNSに流れる情報を収集し、AI(人工知能)が情報の真偽を判定して、ニュース性が高い情報を全国のテレビ局、新聞社などに配信しています。

ニュース配信以外では、選挙の情勢調査についても機械化に取り組んでいます。人手を使った電話調査と比べ、機械を使った情勢調査はコストが1桁以上安くなるんですよ。試行錯誤を重ね、低コストながらも40代から70代までバランス良く、幅広い年代の声が拾えるようになりました。

下村:AIの判定に委ねて、人間によるチェックを全く設けないというのは、今までの報道人からすると非常識とすら思われかねない、ある意味とても勇気ある決断ですが、そのポリシーはどこから?

米重:もともと子供の頃から新聞をよく読んでいたのですが、当時から「この時点でこういう情報があればいいのに、もうちょっと速くならないのかな」とか「こういう情報がもっと欲しいのに、少ないな」といった問題意識は持っていたんです。
で、今回企業としてサービスする時、これまでの報道の常識ややり方ではなく、受け手の感覚で組み立てていこうと思ったんですね。だから結果として、いいサービスに近づくスピードは速かったという感覚はあります。

ジャーナリズムをビジネスとして成立させる“実験場”

下村:一方で一般人向けには、JX通信社は先ほど言われたNewsDigestを提供していますが、これはほかの一般向けニュースメディアとどこが違うのでしょうか。

米重:ニュースの報道価値をAIで判断して、いち早く速報を流す。そういう、ライフライン的に使ってもらえるような速報ニュースに主眼を置いたニュースアプリです。
さらにいえば、「報道価値にもしも最大公約数というものがあるのなら、機械でも判断できる」ということを、ある意味“実験する”という目的もあります。

下村:「最大公約数」とはつまり、デスクの属人的こだわりといった要素を取り除いた価値判断、といった意味ですかね。で、実際どういうことを“実験”しているんですか。

米重:1つはAIで報道価値を判断して、いち早く社会に知らせるというテクノロジーの実験。もう1つは収益性の実験です。

JX通信社は「ビジネスとジャーナリズムの両立」を掲げており、それをテクノロジーで実現するというミッションがあるのですが、この「ビジネスとジャーナリズムの両立」については、これまで説明して来たようなコスト削減はもちろん、収益についても考えていく必要があります。そしてNewsDigestは、いろいろなビジネスモデルを試す実験場として、課金モデルや新しい広告モデルのあり方などを展開していきたいという構想があります。

下村:機械化の徹底で、節約という《守り》だけでなく、儲けという《攻め》も実現しよう、と。それは非常に大切な実験テーマですね。具体的な成果はいかがですか?

米重:正直、まだ我々自身が納得できるような道筋は見えていません。ですが、このテーマについては同じ志を持つ方々と共同で、試行錯誤をしながら、何か道筋をつかみたいと思っています。

「通信社」として、JIMAの仲間から教わりたいこと・共有したいこと

下村:「同じ志を持つ方々と」という今のお言葉の中に、JX通信社がこれからJIMAでやっていかれたいことが、こめられている気がします。

米重:私たちが目指しているのは、SNSなどを通じて世界70億人から情報を集め、それを70億人に配信していくCtoC型(コンシューマーが発信・受信する)のニュースメディアです。テクノロジーを活用して編集し、1人ひとりにニュースという形で届けていくことが我々の仕事と思っているので、そういう新しいメディアを実現していくなかで、JIMAの皆さんから教えてもらうことがたくさんあると思います。

一方、我々の目指すメディアは今までに前例がないので、そこで得られた知見や発見をシェアしていきたいと考えています。また、一般の人から提供された情報の扱いについて、間違ってしまったケースやデマを掴んでしまうケースもあると思いますが、それをどのように防いでいくかについても、技術的に取り組んできたので、それも共有したいと考えています。

下村:それは、加盟各社に大歓迎されそうですね。実際、これからいよいよJIMAの会員向けに、色々な知見を交換し合う定例セミナーが始まります(初回は、8月28日「ネットメディアは炎上にどう対応したらいい?」)。いずれ、米重さんを講師とする回も持たれそうですね。ただ、報道産業はある意味で競争者同士でもあるので、特に収益化のノウハウについては「うちだけに教えてくれ、他社とは共有したくない」という企業もあるかもしれませんよね。

米重:私たちは創業時から「通信社」と名乗っているのですが、ニュースを配信する通信社はもともと共助のプラットフォームだと考えているんです。つまり報道各社がコストを出して、取材コストを集約している。私たちが取り組んでいる、業界全体が直面しているテクノロジーの課題というのは、決して個別プレイヤーの問題ではなく、全体で同じ問題を抱えているので、そこは各社が個別に取り組む必要はなく、共有していく方が効率的だと思うんですよ。新しい収益化の道筋も含め、私たちは、1つのプラットフォームとしての新しい通信社、そういうものが作れるといいなと思っています。

下村 : なるほど。従来の通信社が、加盟各社に広く記事を配信して来たように、JXさんは広く課題へのソリューションも配信していく、というイメージですね。

引越しと票読みごっこで、新聞を見る目を鍛えた小学生時代

令和メディア研究所主宰 下村健一さん
令和メディア研究所主宰 下村健一さん

下村:では次に、米重さん個人のこともお聞かせください。そもそもなぜ、そんなにニュースに対する愛が芽生えたのですか?

米重:子供の頃から新聞は好きで、割と読んでいました。転勤族だったので、小学校だけでも、広島、福岡、熊本、東京と移り変わって、以降は東京に住んでいますが、広島の時は中国新聞、福岡だったら西日本新聞、熊本では熊本日日新聞というように、地域で読む新聞が変わっていました。日本は地方紙の方が圧倒的に存在感が大きいので、そういうものを昔から読んで育ったという影響はあると思います。

下村:先ほどのお話にありましたが、記事内容に対する興味だけではなく、「もっとこのタイミングでこういう情報を出せばいいのに」など、記事のタイミングについてまで考え出したのはいつ頃から?

米重:おそらく小学生の時だと思いますが——、選挙の情勢報道を読んで、票読みすることに興味が出てきたんです。
不思議だったのは、(全国紙同士でも)各紙で書いてあることがバラバラだったこと。その時に「これはどこかが信頼できないんだ」と思ったのですが、選挙結果と照らし合わせて読んでいくと、この地域ではA新聞が合っていた、あの地域ではB新聞が合っていた、ということがある。そこで、必ずしも「この新聞が信用できる、あれは信用できない」というわけではないことに気付いたんです。

そのうち、「各紙で共通するファクトは何か」「どこから違うのか」「共通するファクトの背景には何があるのか」「発信者は何を考え、こういう表現にしたのか」などを考えて読み込むようになりました。こういう経験を積むなかで、「行間を読み、共通するファクトを洗い出すことができれば、どんな情報源でも知りたいことを知ることができる」という感覚が芽生えました。

下村:それはすごい。小学生の頃からいろんな新聞を読んで、「共通の部分」を抽出するということに気付いたと。それが、いまおやりになっている「共通の部分を機械化しよう」という発想にまでしぶとくつながってるんですね(笑)。

ファクトとオピニオンを区別し、ニュースを正確に読み解こう

下村:最後に、普段からネットのニュースに慣れ親しんでいる方、ネットメディアを信じていいか懐疑的な方、いろいろなネットユーザーの方に対してメッセージをお願いします。

米重:はい、私はネットで情報を得るということは、ある種のリスクと隣り合わせだと考えているんです。それはつまり、何が事実で何が間違っているかわからないということです。
その時私がいつも留意しているのは、「ファクト」と「オピニオン」を切り離して摂取することです。「この人の言葉のこの部分はファクトだな」「ここはオピニオンだな」と切り分けて、それを自分に取り込む読み方が基本だ、と。ネットの情報を吸収する時には、この姿勢が重要だと思います。

記事のなかには、いろんなオピニオンの積み重ねを根拠に、「だからこうだ」とファクトのように決めつける論法がとても多いんです。複数のオピニオンを根拠に、ファクト「のようなもの」を作り上げる記事ですが、もちろんそれはファクトではありません。そういう記事を見きわめられるリテラシーを持つことが一番大事だと思いますね。

下村:それって、JIMAのリテラシー部会が目指してることと、ドンピシャですよ! 私たちも、一般のネットユーザーの皆さんを対象に、近くそういう眼力を身に着けるための公開講座を3か月ごとに開いていきますから。JX通信社は、そういうファクトとオピニオンの切り分けや、見極めスキルの向上にも貢献していくのでしょうか。

米重:はい、SNSの情報の中でも、ユーザーが思い込んで投稿しているものはたくさんあります。なので共通するファクトは何かという点は、AIでも解析の手がかりとしますし、ネットユーザーのみなさんが「ここまでは共通しているけど、ここからは違う」という視点を持つことも大切だと思います。

下村:それ、小学生の時のセリフと同じじゃないですか(笑)。

米重:そうですね、ずっとそう思い続けているのかもしれません(笑)。

下村:少年時代の思いを、JX通信社で垂直に掘り下げ、JIMAで水平に広げようと。これからが、本当に楽しみですね。

(まとめ:岩崎史絵/写真:ATZSHI HIRATZKA)



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