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[JIMA講座]情報発信者に求められるリテラシーとは?[下] ——真偽を見極め発信する責務と機会

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古田大輔 JIMA理事/株式会社メディアコラボ代表/ジャーナリスト

 

情報発信者が身につけ、責任を持つべきメディアリテラシーついて論じた前編に続いて、本稿では、流通する情報をめぐり真偽を見極めていく必要性とそのための実践的なスキルを論じます。また、その先に見えてくる新たなメディア活動やジャーナリズムの姿についても言及します。(事務局)

構成

  1. 発信者にとっての「メディアリテラシー」とは
  2. 情報環境は「欠乏から過剰へ」。ゲートキーパーとしてのメディアの終焉
  3. 激減する収入、それよりも信頼性を優先課題とすべき理由
  4. 信頼よりも収益を優先させたときに何が起こるのか

—以上は[上]に—

  1. 「フェイクニュース」とファクトチェック
  2. 情報の真偽を見きわめるデジタル時代のスキルを学ぶ
  3. 危機であると同時にメディアの黄金時代
  4. 日本でも広がり始めたコラボ

5. 「フェイクニュース」とファクトチェック

もう1つの必要な能力は何か。それは世に流れている情報の真偽を見きわめる力、つまりファクトチェックする能力です。

メディア業界で、ここ数年特に注目されているトピックとして、「フェイクニュース」問題があります。フェイク“ニュース”といっても、いわゆる時事ニュースだけの話ではありません。世にあふれるさまざまな情報、あらゆる記事や番組、TwitterやInstagramの投稿やコメント、広告やエンターテイメントのなかにも散見されます。フェイクニュース問題とは「情報の生態系全体に関する問題である」と言えます。

ここで改めて「フェイクニュース」に関して定義しておきます。次の図に示すように、「正確/不正確」「客観的/主観的」の2軸4象限に分けて考えていきます。

「フェイクニュース」を定義する

[JIMA講座]情報発信者に求められるリテラシーとは?

※「記事」には広告やTwitter、コメントなどあらゆるコンテンツを含む

ファクトチェック・イニシアティブの判定基準

  • 合格
    • 正確
    • ほぼ正確
  • アウト
    • ミスリード
    • 不正確
    • 根拠不明
  • 完全にアウト
    • 誤り
    • 虚偽

これらの分類の理解や検証する技術の土台が不可欠
⇨ 支えとなるのが「伝統的メディアリテラシー」

図 「フェイクニュース」の定義(筆者作成)

ここでは「記事」と書いていますが、先にも述べたように番組や広告、ツイートやコメントなども含みます。

正確なものを「記事」と呼ぶとして、客観的な事実だけで構成する「速報記事」や主観を盛り込んでいく「特集」「論説」など、記事にもさまざまにあります。時々、「記者の主観が入って事実を歪めているからフェイクニュース」などという批判がありますが、主観が入ったからと言って事実が歪むとはかぎりません。主観が入りつつ、正確な事実に基づいた正当な論説もあります。

問題は、主観的だろうが客観的だろうが、不正確な情報です。これらがいわゆる「フェイクニュース」。図の左側です。フェイクニュースという言葉は敵対陣営を攻撃するレッテル張りに使われやすいので、専門家の間では相手を騙す意図が入った主観的なものを偽情報(Disinformation)、そういう意図とは別に不正確なものを誤情報(Misinformation)と呼びます。

これが基本的な考え方ですが、実際にファクトチェックをする際はさらに細かく分類をすることもあります。例えば、日本でファクトチェックを広げる活動をしているファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)が公開している判定基準が右の図です。

「正確、ほぼ正確、ミスリード、不正確、根拠不明、誤り、虚偽」と分類しており、このうち合格と言えるのは「正確、ほぼ正確」のみです。ちなみに私はFIJの理事でもあり、この判定基準を決める議論に参加していました。こういった分類を考える際にも、伝統的なメディアリテラシーがベースになります。

世の中には、根拠不明な記事や不正確な記事、ミスリードのコンテンツなどがあふれています。Webだと「釣り見出し」と呼ばれる扇情的な見出しもその一つと言えます。見出しに「〜〜の真相」とあるのに、ほとんど内容がない記事に行き当たった経験が誰しもあるでしょう。

余談ですが、近年、こうしたクリック誘導を狙った“CTR至上主義”(CTRはクリック・スルー・レート。読者が見出しをクリックしてコンテンツを見る割合)は解約など読者離れを招くというデータが出てきています。見出しとかけ離れた内容の記事で読者の不満を招いたり、多くの読者を獲得しようとして、ターゲット外の読者を呼び込んでしまうからです。

6. 情報の真偽を見極めるデジタル時代のスキルを学ぶ

誤情報や偽情報が溢れる情報洪水のなかでは、メディア関係者自身も、情報の真偽を検証する能力を持たなければなりません。ソーシャルメディアで不正確な情報やデマをシェアするメディア関係者を見かけますが、信頼性に傷がつきます。

ここで重要なのはデジタル時代のリテラシーです。新たな技術を知っておく必要があります。

最近では、AI技術を使って架空の人物を作り出し、声や動作を加えて、実際には存在しない動画を作る「ディープフェイク」という手法が登場し、真偽の見きわめが非常に困難になっています。検証できる能力は、自身が「信頼できる情報」を読者に伝えるために、信頼に足る記者だ、メディアだと思ってもらうために、備えておくべき大切なリテラシーです。

真偽の検証は大きく分けて2つのタイプがあると言われています。

1つは上に出た「ファクトチェック」。

もう1つは「Verification」(ベリフィケーション)です。日本語にしにくいのですが、ここでは「裏取り」と呼びます。

ファクトチェックは、すでに公開されている言説や情報に対して、内容の正確さをチェックすることであり、そのチェックする過程や結果自体をファクトチェック記事として公開することを言います。

裏取りは、その前段階とも言えます。例えば、事件や事故で現場の写真と思われるものがネットにアップされた。それが本当に現場の写真かどうか確かめる=裏取りしてから記事に掲載する。そういう行為です。

裏取りは昔から報道機関がやっていたことです。しかし、その重要性は増している。なぜなら、デジタル時代は情報量が膨大になり、真偽が不確かなものも圧倒的に増えたからです。しかも、それが一瞬で拡散していく。

新聞社などの伝統的な報道機関であれば、昔からの「裏取りのやり方」について、代々引き継がれてきたルールやノウハウがあります。たとえば「確実に信頼できる情報源を複数使用する」「情報提供者は実名を基本とする」「情報の確実性の範囲を明確にする」といったことです。

これはもちろん検証には必要な知識ですが、これだけデジタルが普及すると、「デジタル技術を活用して真偽や正確さを検証する」というスキルも併せて持たなくてはなりません。

どのようなツールを使えば検証できるのか、誤情報や偽情報の問題に取り組む米国のNPOであるFirst Draft(ファーストドラフト)がツールキットを公開しています。Webを通じたトレーニングプログラムも提供しています。

デジタル技術やツールに拒否反応を示す人もいますが、最低限、たとえばTwitterアプリの「TweetDeck」を使うだけでも、自分の取材分野や自分が書いた記事について多くの情報を効率よく収集することができます。フェイクの多い画像や動画についても、一瞬で検証できる便利なツールが存在します。自分が誤った情報に踊らされないためにも、デジタル技術を使って真偽を裏取り・検証することは必要です。
世界に広がるファクトチェックですが、日本には課題があります。既存・新規問わずメディアに広がっていません。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)の調査「日本におけるフェイクニュースの実態と対処策」によると、「フェイクニュースは深刻な社会問題なので、何らかの対処が必要である」という質問に「非常にそう思う」25%、「そう思う」56%。社会的な問題意識は広がっているのに、メディアに対策が広がっていません。

デジタル時代のVerification(裏とり)はできているか

[JIMA講座]情報発信者に求められるリテラシーとは?

図 デジタル時代に求められる「裏とり」能力とそのツール

7. 危機であると同時にメディアの黄金時代

信頼性と収益性の2つの危機に直面しているメディア業界ですが、同時にテクノロジーによって情報生態系が進化し、新たな取り組みが次々と生まれ、黄金時代を迎えているとも言えます。

ニューヨーク・タイムズ」はデジタル課金のユーザーが570万人を超え(2020年8月)、デジタルからの収入が紙からの収入を超えました。一時は身売りまで噂されるほど経営が厳しくなっていましたが、2014年に社内の中堅メンバーがまとめた「イノベーション・リポート」をもとにデジタルトランスフォーメーションに成功しました。

詳しくはnoteで連載を書きましたが(筆者「ときには本当に『必読』なものがある 【イノベーション・リポート】」)、リポートに冒頭に掲げた言葉は、「NYタイムズのジャーナリズムは勝っている。しかし、読者に届ける部分で負けている」でした。自分たちの価値の源泉をしっかりと規定したうえで、不十分な点を正面から見つめ、新興のインターネットメディアにその手法を学びました。
今やNYタイムズのコンテンツや届け方など、数年前まで考えられなかったほど進化しています。例えば、ビジュアル調査報道シリーズ。「ガザ」ではパレスチナでイスラエル軍の発砲で看護師が死亡した事件について、スマホで現場の状況を撮影していた人たちからデータを提供してもらい、3Dモデルを作り上げて状況を再現しています(こちらを参照)。

NYタイムズのVisual調査報道「Gaza」

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図 New York Timesのビジュアル調査報道の事例

私が「メディアコラボ」という会社を作った理由でもありますが、組織の枠を超えたコラボレーションによる素晴らしいコンテンツも増えています。

ONAのオンラインジャーナリズムアワードを受賞した「エレクションランド」はデータ分析が得意な調査報道NPO「ProPublica(プロパブリカ)」と全米各地のローカルメディアが組んだ企画で、プロパブリカが様々な選挙データをリアルタイムに分析し、問題がありそうな地域のメディアに連絡して現地取材をしてもらうという企画で多数のコンテンツにつながりました。

ジャーナリズム業界の最高の栄誉であるピュリッツァー賞を2020年に受賞(「パブリックサービス部門」)したのも、プロパブリカとアラスカの地方紙のコラボ企画でした。

収入の多様化という面でも、広告や講読費以外にも、個人や団体からの拠出をはじめ新たな手法、戦略が次々と実践され、成功モデルが出てきています。NYタイムズだけではなく、小規模なメディアやローカルメディアでもこれまでには不可能だった取り組みが実現しています。

8. 日本でも広がり始めたコラボ

日本では業界内のライバル関係が激しく、終身雇用で人材の流動性も低いことから、社を超えたコラボや知見の共有などは限られていました。しかし、それも変わりつつあります。

西日本新聞社では、読者とつながる調査報道「あなたの特命取材班(あな特)」が、西日本新聞だけでなく、全国20弱の新聞社とパートナーシップを結んで、読者の知りたいとのリクエストを受けて報道を行っており、注目を浴びています。

また、全国24のメディアがコラボし、Googleニュースイニシアティブがサポートするプロジェクト「コトバのチカラ」が、新型コロナウイルスが猛威を振るう中、人々を勇気づけるアスリートらのコトバを集めて発信しています。

ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)も新聞社やテレビ局、ウェブメディアなどのメディアパートナーと協力してファクトチェックを拡げる組織です。このインターネットメディア協会(JIMA)もメディアの課題をともに考え、啓発しあう団体として生まれ、こうしたセミナーを開催しています。

信頼性と収益性という2つの危機を迎えるなかで、各社の競争原理よりも、メディア業界としてお互いに手を取り、自分たちの社会的価値を見つめ直してより良い方向に進むことが、最終的にメデイア全体の価値や収益を上げることになるはずです。

こういう世界的な流れを理解しておくことも情報の発信に役立つ、発信者のためのメディアリテラシーなのだと考えています。

ポイント

  • 氾濫するフェイクニュースを偽情報・誤情報と定義しなおす
  • 釣り見出しもミスリーディングでアウト。ユーザーに対して逆効果
  • ファクトチェックには伝統的なリテラシー+デジタルリテラシーが必要
  • 危機であると同時にテクノロジーで進化するメディアの黄金時代
  • 日本でもこれまでになかったコラボが生まれている

(まとめ:岩崎史絵/JIMA事務局)

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