メディアの思いは、なぜZ世代に届いていないのか——『Z世代の現状から、これからのメディアを考える』 開催レポート
一般社団法人インターネットメディア協会(JIMA)主催、Internet Media Awards 2022 実行委員により企画されたオンラインイベント「Z世代の現状から、これからのメディアを考える」が12月16日に開催されました。
このイベントは、「Internet Media Awards 2022」が、メディア関係者だけでなく、自薦・他薦含め一般の人たちも応募できることを、より多くの方々に知っていただくことを目的としています。
今回、Internet Media Awards 2022 実行委員会が、特に注力したのはZ世代です。
2021年12月には、跡見学園女子大学、昭和女子大学、青山学院大学、武蔵野大学で寄附講座を実施。その結果、学生からの応募もいただいています。
青山学院大学 教授の松永エリック・匡史さんには、寄附講座の時間をくださった上に、このイベントの主旨も理解いただき、今回3名のゼミ生とともに登壇いただくことが実現しました。
以下、オンラインイベントで行われたディスカッションの概要とアーカイブ動画を掲載いたします。(動画URLは文末にあります。また、JIMA会員以外のみなさまにもご視聴いただけます)
<登壇者>
●松永エリック・匡史氏(青山学院大学 地球社会共生学部 教授)
バークリー音楽院出身のミュージシャンとして活躍した後、コンサルティング業界へ転身。アクセンチュア、野村総合研究所、日本IBM、デロイトトーマツ コンサルティング メディア統括パートナー、PwCコンサルティング デジタル日本統括パートナーを歴任。2018年よりアバナード デジタル最高顧問。2019年より青山学院大学 教授。2020年より事業構想大学院大学 特任教授。
●青山学院大学 4年生高橋幸智さん、3年生小山千寬さん、2年生宮嶋広樹さん
<司会進行>
Internet Media Awards 2022 実行委員:細田知美 / 電通PRコンサルティング
Z世代にとってのメディアとは何か。メディアはこれからどうしていくべきか
10代後半〜20代前半のいわゆるZ世代は、マスメディアから遠ざかっていると言われ、多くのメディアがZ世代が興味を持つコンテンツを探り、SNSや動画を駆使しながら、次の時代のメディアのあり方を模索しています。
なぜ、Z世代はマスメディアに興味がないのでしょうか。
エンタテインメントとメディア業界のコンサルタントとして、長年、外資系コンサルファームでパートナーを務めてきた、青山学院大学 教授の松永エリック・匡史氏に解説いただきつつ、Z世代の大学生3名にも参加いただき、本音に迫りました。
ディスカッションは、学生へ事前に実施したアンケートをもとに進められました。
・メディアといったら何を思い浮かべますか?
・毎日の情報は何から得ますか?
・日本のメディアが伝えているコンテンツは、海外と比べてどう?
・正しい情報とそうでない情報は、どう見分けますか?
・日本のメディア、これからどうしていくべきだと思う?
これら5つの問いへの答えと、松永エリック・匡史氏の解説や意見から、Z世代がメディアをどう思っているのかを深堀りしていきます。
ディスカッション
「メディア」といったら何を思い浮かべますか?
・「影響力の高い人がメディアになっている」(小山さん)|4:48
・「空いた時間に気軽に利用できることがポイント」(宮嶋さん)|09:12
<松永氏解説>
今は「個」が発信し有名になり、ブランドになって、その個人の発信が価値になる流れができている。
また、Z世代は大人が想像する以上に忙しく、まとまった時間を確保してテレビを見る時間がない。そんな中、場所を選ばず細切れに見ることができるコンテンツに人気がある。テレビ番組も切り取られた状態の動画がYouTubeなどで配信されていて、あえてテレビを見なくても、魅力的な情報を得ることができる。「好きな場所で好きな時に見れる」というのがメディアの重要な要素になっている。
毎日の情報は何から得ますか?
・「ひとり暮らしをしてから、テレビでニュースを見る機会がなくなった」(宮嶋さん)|12:00
・「日常的に見るメディアと気になった情報を深堀りするメディアを使い分ける」(高橋さん)|13:21
<松永氏解説>
今のネットニュースは、コンテンツの内容(良し悪しも含め)よりも見出しの重要性が高くなっている。表題一行で目を引かせることができるかどうか。学生たちは、ぱっと見たものの中から気になったものを選択して、情報を入手している。一方、地上波放送の情報発信の最近の傾向は、インターネットで情報を得る若者が多い中で、インターネットから入手した情報をテレビ番組が取り扱うことが多くなってきた。テレビは今後、インターネットのコンテンツに頼ることなく、独自の視点と感覚をベースに生み出すことができる人をいかに巻き込んでいけるだろうか。
日本のメディアが伝えているコンテンツ、海外と比べてどう?
・「偏った情報発信によって、メディアの影響力が悪い方向に使われてしまっているように感じています」(小山さん)|21:44
・「エンタメを見ると、日本でも誇るべきコンテンツが発信されている」(高橋さん)|25:45
<松永氏解説>
最近の地上波放送はタレントの使い方が変わってきて、各分野のプロが難しい解説をするより、お笑い芸人やアイドルがニュース番組に出演し、面白おかしく発言をするようになった。その変化は番組制作費の削減やインターネットメディアとの競争から、人の目を引くために生まれたものだと思うが、その結果メディアが扱うコンテンツのレベルが低下してしまっている。Z世代は信用度の高い情報を求めている中で、若者の需要を見誤ってしまっているのが現状の課題にある。
正しい情報とそうでない情報は、どう見分けますか?
・「普段違うメディアを使っている家族などに確認することで判断することができる」(宮嶋さん)|29:26
・「どんなメディアが発信しているのか、情報の発信元を確認する」(高橋さん)|30:55
<松永氏解説>
最近、若者はスマートフォンやパソコンの画面に表示される情報を得るため、一見して大手メディアと個人の発信する発信元の違いを認識しづらくなっている。そのため、大手メディアは自分たちの発信する情報が信頼できるものであることを示すブランディングとコンテンツの精度が必要である。
また、もうひとつ気をつけなければいけないのは好き勝手に発信できる個が際立つ時代の中で、地味だが情報源がしっかりし文章力も高い責任あるメディアが埋もれてしまっていること。今一度メディアとしての役割を見直して、信頼ある情報を発信するべきだと思う。それをしないとメディアの差別化をすることができない。
日本のメディア、これからどうしていくべきだと思う?
・「ジャンルごとの区分けで、自分がほしい情報を手に入れられる番組を」(宮嶋さん)|38:19
・「流行りをつくるために、本質を捨ててしまっているのではないか(小山さん)|41:10
・「若者に寄せた情報発信に違和感を感じる」(宮嶋さん)|44:46
・「裏に濃いストーリーを、表に強いメッセージを」(高橋さん)|49:32
<松永氏解説>
日本のSNSは、個人の承認欲求が民主化し発展してきた。個人が発信する情報が「内輪向け」になってしまうのは仕方ないことなので、大手メディアが個では出せないより独自の特徴を持って情報発信をしないとこれから生き残っていくことはできないだろう。
今のZ世代は、社会情勢などに敏感で、社会にとって何が大事なのかをかなり意識している。実は我々大人が学生のことを知らず、無知な若者として大手メディアは情報発信をしてしまっていないだろうか。Z世代サイドにもっと大人が飛び込み彼らを理解しようとすべきだと思う。
数年後には社会を担っていくZ世代などの若者の発信を表面的に評価するのではなく、実際に彼らと話し共感しリスペクトし、一緒に新たなメッセージを創り出すというような、柔軟性が求められる。
参加者からの質問
・テレビが主流だった時と比べて友人との会話に共通の話題が少なくなったように感じています。みなさんはどう考えますか?|53:00
(高橋さん):減っているように感じます。継続的に見続けているコンテンツもないですね。
(宮嶋さん):今はインターネットでいろんなコンテンツを見ることができるので、自分が見るジャンルによって会話は変わります。一方で、今流行りのものを友人から教えてもらって見ることで、共通の話題をつくることができています。
(小山さん):大学生になると、友人と生活時間が合わないことも多いので、共通の話題が必ずしも必要ではないと思っています。それぞれの意見を聞けるのが楽しいです。
(松永さん):みんなとの共通の話題がなくなったのは悪いことではないと思います。実際の個別の嗜好は様々ですから。メリットとして、今はコンテンツを見る時間をユーザーが選べるようになった。テレビ番組が主流だった時代の悪い面を考えると、観るべきコンテンツが指定され、配信される時間が決まっていてメディア側からコントロールされていた部分がある。今は時間の使い方が変わって忙しい人が多い時代。コンテンツを選ぶのは個の方になってきている。だからこそ、いいコンテンツを作ってもそれを誰にどう見てもらうかまでを考えないといけません。そこが今の地上波放送が対応できていない部分だと思います。
・ワイドショーのようなものをニュースと捉えていないか気になりました。ニュース番組はどう感じていますか?|55:50
(小山さん):そもそもテレビを見なくなっているので、正確には把握できていません。違和感を感じるワイドショーが放送されていると、テレビを見る価値があるのかなと感じてしまい、しっかりとしたニュース番組を見れていないんだと思います。
(高橋さん):私は特定の好きな番組をテレビで見ることはありますが、基本的にはインターネットで情報を得ることが多いです。
(エリックさん):ニュース番組自体が少ない上に、ニュース番組内での俗な企画ものが多すぎると感じています。堅苦しいニュース以外でも視聴者を惹きつけたい気持ちはわかるのですが、地上波ならではの信頼性の高い情報とコメントが異常に少なくなっています。実際、世界的な大きなニュースがネットで報じられてTVをつけてもバラエティー番組をひたすらやっていてニュースがテレビでは観れないということが多くなると、ニュースの内容をネットに求めてしまうのは仕方ないですよね。スポンサーとの関係もあるのでニュース番組をインサートしろとは言いませんが、地上波デジタルの特性を活かした文字情報を活用するなど方法はあると思います。提供すべきニュースを提供すべきタイミングでどうすれば地上波で提供できるかを考えるべきでしょう。
最後に
メディアがZ世代にウケようとすればするほど、Z世代はそれを見抜きメディアへの絶望感を募らせてしまうという現状が生まれています。さらに、すでにレガシーメディアに対してネガティブイメージを抱いているため、いいコンテンツをつくり発信しても、それを見ようともしないという、大きな課題が浮き彫りになりました。
また、メディアはSNSやYouTubeを駆使し、若い世代に情報を届けていますが、実はそのほとんどが届いていないという声もありました。メディアはその事実を受け止め、自身の存在を見直し新しい価値を創造した上で、これからのコンテンツづくりや情報発信を考えていかなくてはならないという、変化するための大きな手がかりをこのディスカッションから得ることができました。
登壇いただいた、松永エリック・匡史さん、高橋幸智さん、小山千寬さん、宮嶋広樹さん。また、当日ご視聴いただきました皆さまありがとうございました。
アーカイブ動画はこちら
本企画は、一般社団法人インターネットメディア協会主催、Internet Media Awards 2022 実行委員により企画されたオンラインイベントとなります。
「Internet Media Awards 2022」では、現在、2021年に印象に残った作品や活動の募集しています。ぜひ、あなたの心と社会を動かした信頼のあるコンテンツを教えてください。募集期間は、2022年1月12日17時までです。どうぞよろしくお願い致します。
Internet Media Awards 2022 の詳細はこちら
(文責 / 撮影:JIMA事務局)